1870年創立──日本女子教育の原点に立つ学校
横浜・山手の丘の上に、155年の歴史を刻む女子校がある。フェリス女学院中学校・高等学校──その名を聞いた瞬間、多くの人が「横浜の伝統女子校」というイメージを抱く。それは単なるブランドイメージではなく、この学校が日本の女子教育の黎明期から積み上げてきた歴史の重さに由来している。
フェリス女学院の創立は1870年(明治3年)。アメリカ改革派教会の宣教師メアリー・E・キダーが横浜山手に開いた私塾「キダー塾」がその起源だ。東京女学館(1877年)や女子学院(1870年・同年創立)と並んで、日本最古の女子教育機関のひとつとして知られる。明治初期、女性が高等教育を受けることが珍しかった時代に、キリスト教の精神のもとで女性の知性と自立を育てようとした学校の姿勢は、155年を経た今も変わっていない。
校名の「フェリス」はラテン語で「幸せな」を意味する。建学の精神は「For Others」──自分のためだけでなく、他者のために生きる人間を育てるという理念だ。この精神は授業・礼拝・課外活動のあらゆる場面に浸透しており、進学実績を前面に出すことなく、生徒の内面を育てることを一貫して重視してきた。
学校データ──横浜山手という唯一無二の舞台
フェリス女学院中学校・高等学校は、神奈川県横浜市中区山手町に位置する私立の女子中高一貫校だ。最寄り駅はJR根岸線「山手駅」から徒歩10分圏内で、横浜港を見下ろす山手の丘という立地は、国内の進学校の中でも屈指のロケーションといえる。外国人居留地として栄えた横浜山手の歴史的な雰囲気が、学校全体の空気感にも影響を与えている。
1学年の生徒数は約200名(中学・高校各学年)で、こぢんまりとした規模感が特徴だ。完全中高一貫制で高校からの外部募集は行っておらず、6年間を同じ仲間と過ごす一体感がある。キリスト教(プロテスタント・改革派)に基づいた教育を実践しており、毎朝の礼拝と聖書の授業が6年間を通じて続く。これは日本の進学校の中でも珍しい取り組みだ。
教育理念を端的に示すのが「Be a Brave Pioneer」という標語だ。勇気を持って道を切り拓く人間を育てる──この言葉は、進学実績や偏差値よりも「どう生きるか」を問う学校の姿勢を象徴している。
入試の特異性──1回入試が語るもの
フェリスの入試で最も特徴的なのは、中学入試が2月1日の1回のみという点だ。首都圏の難関校が複数回の入試日程を設けるのが一般的になっている中で、この「1回勝負」の姿勢はむしろ際立っている。志願者はおよそ400名前後、合格者は200名前後で、辞退率は非常に低い。つまりフェリスを第一志望として受験する生徒が大多数を占めるということだ。
この構造は、入学者の質と学校への帰属意識に直結している。複数回入試や繰り上げ合格で定員を埋める学校とは異なり、「フェリスに入りたい」という強い意志を持った生徒が集まる。その結果として生まれる学校文化の純度の高さが、フェリスの校風を形作っている要因のひとつだ。入試偏差値は首都圏模試換算で78前後と、桜蔭・女子学院・雙葉に次ぐ水準を維持している。
進学実績──PFP全国39位、東大合格の推移
2025年版PFPスコアは131.36、全国39位。同じ神奈川の洗足学園(132.66・38位)とほぼ同水準で、両校の実力が拮抗していることを示している。東大合格者数の推移を見ると、近年は洗足に水をあけられつつあるが、理科三類合格者を安定して輩出しており、少数でも質の高い進学実績を守り続けている。
| 年度 | 東大合格者数(うち理三) |
|---|---|
| 2021年 | 8名(0名) |
| 2022年 | 10名(0名) |
| 2023年 | 6名(0名) |
| 2024年 | 6名(0名) |
| 2025年 | 8名(1名) |
※各年度の東大合格者数(現役・既卒合計)
東大合格者数だけを見れば、御三家(桜蔭・女子学院・雙葉)や洗足学園に及ばない。しかしフェリスの進学実績はそれだけで測れるものではない。東大・京大・一橋・東工大・医学部といった難関大学への進学者に加え、慶應・早稲田・ICU・上智など文系難関への進学者も多く、文理バランスの取れた出口を持つ。さらに海外大学への進学者も一定数おり、国内の偏差値序列に収まらない進路選択が行われているのもフェリスらしさだ。
礼拝・聖書・奉仕──「For Others」の教育実践
フェリスの日常は、毎朝の礼拝から始まる。全校生徒が礼拝堂に集まり、讃美歌を歌い、聖書の言葉に耳を傾ける時間は、6年間を通じて変わらない日課だ。聖書は必修科目として全学年で学ぶ。これは単に宗教教育というよりも、「なぜ生きるか」「他者をどう大切にするか」という問いを日常の中で考え続けるための仕掛けである。
奉仕活動も教育の柱のひとつだ。地域の施設や社会活動への参加を通じて、「自分より恵まれない立場の人のために何ができるか」を考える機会が設けられている。偏差値の高い進学校でありながら、成績や合格実績よりも人格の形成を優先するという姿勢は、創立以来一貫している。
こうした教育が生み出す卒業生の特徴として、自己主張と他者への配慮を両立できる女性が多いという声がある。華やかな立地と伝統的な校風が同居するフェリスは、「名門感」と「人間教育の深さ」を両方持つ稀有な学校として、長年にわたり一定の受験生から強く支持され続けている。
洗足学園との比較──実績か、伝統か
神奈川の女子進学校として必ず比較される洗足学園との違いは、一言で言えば「伝統と挑戦者」の対比だ。PFPスコアはほぼ同水準だが、2025年の東大合格者数では洗足28名に対しフェリス8名と大きく差が開いた。数字だけを見れば洗足の優位は明らかだ。しかし受験生とその保護者の間では、フェリスを選ぶ理由として「1回入試の本命感」「山手という立地の歴史的重み」「キリスト教教育による人格形成」が挙げられることが多い。進学実績という一軸ではなく、6年間をどこで過ごすかという視点で選ばれている学校なのだ。
洗足が近年の実績向上で「挑戦者」として台頭しているのに対し、フェリスは155年の歴史に裏打ちされた「選ばれ続ける学校」としての地位を保ち続けている。どちらが優れているかではなく、何を求めるかによって答えが変わる──それがこの2校の関係性だ。


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