2025年・東大28名──神奈川女子校の地図を塗り替えた数字
2025年春、神奈川の女子進学校に大きな変化が起きた。洗足学園中学校・高等学校が東大合格者28名(うち理科三類2名)を記録し、伝統校フェリス女学院(8名)を大きく引き離しただけでなく、東京の名門・女子学院(26名)をも上回ったのだ。PFPスコアは132.66・全国38位と、近年急速に実力をつけてきたこの学校の台頭は、首都圏の女子進学校地図を静かに、しかし確実に塗り替えつつある。
洗足学園はもともと音楽教育で知られる学校だった。学校法人洗足学園は音楽大学(洗足学園音楽大学)を擁し、その付属中高として出発した経緯を持つ。音楽と進学という一見対照的な二つの軸を同時に持つこの学校が、なぜここまで進学実績を伸ばすことができたのか。その背景には、意図的かつ段階的な教育改革がある。
学校データ──音楽大学附属という異色の出自
洗足学園中学校・高等学校は、神奈川県川崎市高津区久本に位置する私立の女子中高一貫校だ。東急田園都市線「溝の口駅」・JR南武線「武蔵溝ノ口駅」から徒歩圏内というアクセスの良さも特徴で、都内・神奈川各地から通学しやすい立地にある。1学年の生徒数は約240名規模で、完全中高一貫制を採用している。
学校法人洗足学園が運営しており、同法人は洗足学園音楽大学を併設している。これが洗足学園の最大の個性のひとつだ。音楽大学のプロ奏者・教員が中高の音楽教育にも関与しており、校内では学生オーケストラ「ニューフィルハーモニック洗足」が活動している。このオーケストラはアニメ作品の音楽録音に参加するなど対外的な実績も持ち、「勉強もできて、音楽も本格的」という洗足の象徴的な存在となっている。
入試は複数回の日程を設けており、繰り上げ合格も一定数発生する。フェリスの「1回入試・本命型」とは対照的な入試設計だが、それが進学実績の急上昇を支えた側面もある。多様な入試機会を設けることで、優秀な生徒を広く集める構造が整っている。
進学実績の急伸──5年間で東大合格者が倍増以上
洗足学園の東大合格者数の推移は、近年の進学校の中でも際立って印象的だ。
| 年度 | 東大合格者数(うち理三) |
|---|---|
| 2021年 | 10名(0名) |
| 2022年 | 20名(0名) |
| 2023年 | 15名(0名) |
| 2024年 | 14名(0名) |
| 2025年 | 28名(2名) |
※各年度の東大合格者数(現役・既卒合計)
2024年から2025年にかけての倍増は特に目を引く。単年の突出した実績として終わるのか、それとも新たな水準として定着するのか──今後の推移が注目される。PFPスコアはフェリス(131.36)とほぼ同水準の132.66で、両校の実力が拮抗していることをデータが示している。東大だけでなく、医学部・早慶・理工系難関大への進学者も増加しており、進学先の幅広さも洗足の強みだ。
音楽と学問の両立──洗足だけの文化的厚み
洗足学園の最大の個性は、音楽教育と進学教育の本格的な両立にある。多くの進学校が音楽・芸術を「課外活動の一つ」として位置づけるのに対し、洗足では音楽が学校文化の根幹に組み込まれている。学生オーケストラ「ニューフィルハーモニック洗足」は、単なる部活動の域を超え、プロの音楽家との共演や外部公演を行うレベルの活動を展開している。
アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』をはじめとする作品の音楽録音に参加したという実績は、音楽ファンの間でも話題になった。「進学校なのにオーケストラがプロ級」という評判は、洗足のブランドイメージを他の進学校とは異なる方向へ引き上げている。勉強だけでなく本物の文化的体験を求める受験生とその保護者にとって、洗足は唯一無二の選択肢だ。
音楽教育の厚みは、感性や集中力・忍耐力の育成にも寄与していると考えられる。楽器の習得と学業の両立を日常的にこなす生徒たちが、受験においても高い集中力を発揮できるのは偶然ではないかもしれない。「音楽が進学実績を下げる」のではなく、「音楽が進学実績を支えている」という逆説が、洗足という学校の本質を示している。
フェリスとの比較──挑戦者が伝統校を超えた意味
神奈川女子進学校の代名詞として長年君臨してきたフェリス女学院との比較は、洗足を語る上で避けられない。2025年の東大合格者数では洗足28名・フェリス8名と大きく差が開き、「実績では洗足が神奈川女子No.1」という評価が定着しつつある。さらに東京の女子学院(26名)をも上回ったことは、洗足が神奈川を超えて首都圏女子進学校全体のランキングで上位に食い込んだことを意味する。
ただし、この「逆転」をどう解釈するかは複雑だ。フェリスは1回入試・本命型の入試設計で、入学者のほぼ全員がフェリスを強く志望している。一方洗足は複数回入試・繰り上げあり、という間口の広い構造だ。母集団の性質が異なる中での数字の比較には一定の留意が必要だが、それを差し引いても洗足の実力向上は本物だ。音楽という独自軸を持ちながら、進学実績でも首都圏トップクラスに躍り出た。それが洗足学園という学校の現在地である。


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