“ギャル校”から全国12位へ──渋渋という逆転劇
渋谷と原宿のちょうど中間、表参道の坂の上に地上9階建てのキャンパスがある。渋谷教育学園渋谷中学高等学校──通称「渋渋」。2025年版PFPランキングで全国12位に位置するこの学校の前身が、偏差値50前後の女子校だったという事実を知る人は、今では少ない。
1990年代初頭まで、この場所には「渋谷女子高等学校」があった。制服が可愛いことで知られ、渋谷・原宿という立地のおしゃれさもあって、いわゆる”ギャル校”として認識されていた学校だ。進学校としての実績はほぼなく、偏差値も首都圏の女子校の中では中位に留まっていた。その学校が1996年、渋谷教育学園渋谷中学高等学校へと全面リニューアルされた。運営主体が変わり、千葉の渋谷教育学園幕張(渋幕)で実績を積んだ教育メソッドが導入され、共学中高一貫校として生まれ変わったのだ。それからおよそ30年。女子の入試偏差値は50から76へと跳ね上がり、桜蔭・豊島岡といった名門女子校の志望者が「共学」「探究」「自由」を求めて流入するようになった。かつての”ギャル校”は、今や日本の教育の最前線に立っている。
学校データ──都心共学の次世代型進学校
渋谷教育学園渋谷中学高等学校は、東京都渋谷区渋谷に位置する私立の中高一貫共学校だ。JR渋谷駅から徒歩10分、原宿駅からも徒歩圏内という、首都圏でも屈指のアクセスを誇る立地にある。1学年の定員は中学・高校ともに約200名で、全校生徒はおよそ1200名規模。校舎は地上9階・地下1階で、図書室・ICT室・ラーニングコモンズ・太陽光発電設備まで完備した大学を超えるような学習環境が整っている。
校則はほぼなく、制服も自由度が高い。パウダールームが完備された校舎など、旧・渋谷女子高時代からの女子への配慮が随所に残りつつも、共学化以降は男女ともに伸び伸びと過ごせる空間として機能している。SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定校であり、探究型学習・国際教育の両輪を高い水準で実現している数少ない学校のひとつでもある。
進学実績──PFP全国12位、桜蔭を超えた数字の意味
2025年版のPFPランキングで、渋渋は全国12位に位置する。注目すべきはその順位が、同じ東京の女子最難関として長く君臨してきた桜蔭(14位)を上回っていることだ。入試偏差値では桜蔭78に対し渋渋76と、まだ桜蔭がわずかに上。しかし卒業時の進学力を測るPFPスコアでは渋渋が逆転している。この「入口と出口のねじれ」こそが、渋渋という学校の本質を示している。
| 指標 | 渋谷教育学園渋谷 | 桜蔭 |
|---|---|---|
| 入試偏差値(2024年・一次) | 76 | 78 |
| PFPスコア(2025年) | 全国12位 | 全国14位 |
※偏差値は首都圏模試センター、PFPは当サイト独自指標
2025年春の進学実績では、東京大学への合格者を安定して輩出しており、医学部・海外名門大学への進学者も年々増加している。特筆すべきは、東大・医学部・海外大という三方向すべてに実績を持つ学校が都内でも限られる中、渋渋がその数少ない一校であるという点だ。イェール大学、ペンシルバニア大学、UCバークレーといった海外トップ大学への進学者は、帰国生だけでなく一般生からも出ており、進路の多様さは他の進学校と一線を画す。
探究とグローバル──SOLAと模擬国連が育てるもの
渋渋の教育の核心は、「自調自考」という建学の精神にある。自ら調べ、自ら考える──この言葉は渋幕と共通するものだが、渋渋ではそれが特に国際・探究の文脈で色濃く表れている。
その象徴がSOLA(Students’ Own Learning Activity)だ。これは生徒が自主運営する900名規模の探究発表イベントで、SDGsや国際社会の課題を英語でディスカッションする形式をとる。教員が主導するのではなく、生徒自身が企画・運営・発表まですべてを担うという点で、他校の「探究授業」とは根本的に性格が異なる。参加した生徒が「本物の議論の場だった」と語るこのイベントは、渋渋の校風を最も端的に示す場のひとつだ。
また、全国レベルの英語ディベート部も渋渋の特徴として知られており、国内大会での実績は際立っている。模擬国連への参加も盛んで、国際的な視野を持つ生徒を育てる環境が学校生活全体に組み込まれている。授業でも英語による討論や発表が日常的に行われており、「使える英語」を身につける機会が豊富だ。渋渋が海外大学への進学者を着実に増やしている背景には、こうした日常的な国際教育の積み重ねがある。
渋幕・広尾・豊島岡──三校との違いはどこにあるか
渋渋を語る上で避けられないのが、姉妹校・渋幕との比較だ。同じ渋谷教育学園の旗のもとにありながら、両校の性格はかなり異なる。渋幕は千葉・幕張に位置し、寮を持つ理系重視の進学校として知られる。東大・医学部への合格者数では渋幕のほうが上回るが、渋渋は都心×共学×バランス重視という軸で独自の立場を確立している。同じ教育理念のもとで、異なる強みを持つ二校として並び立っているのだ。
近年急成長している広尾学園との比較では、両校とも「国際・探究・共学」という点で重なるが、広尾が医進・インターコースという特化型の仕組みを持つのに対し、渋渋は進学実績を伴う実力型という位置づけが明確だ。PFPスコアでも渋渋が広尾を上回っており、「見た目の勢い」ではなく「出口の数字」で比較したとき、渋渋の優位は揺るがない。豊島岡女子学園との比較では、豊島岡が王道の女子進学校として東大・医学部に特化した指導を続けるのに対し、渋渋は共学・海外大・探究という三つの要素を同時に実現している点で、志向の異なる層を取り込んでいる。
東大推薦入試・累計合格者数10年連続日本一という事実
一般入試の東大合格者ランキングでは、開成・筑駒・灘・桜蔭といった名前が並ぶ。しかし、東京大学の学校推薦型選抜(推薦入試)の累計合格者数では、渋渋が2016年から2026年にかけて全国1位という事実がある。累計24名。2位の日比谷(18名)、4位タイの灘(16名)を大きく引き離す数字だ。
| 順位 | 学校名 | 東大推薦 累計合格者数(2016〜2026) |
|---|---|---|
| 1位 | 渋谷教育学園渋谷 | 24名 |
| 2位 | 日比谷 | 18名 |
| 3位 | 広島 | 17名 |
| 4位 | 秋田 | 16名 |
| 4位 | 灘 | 16名 |
※東京大学学校推薦型選抜の累計合格者数(2016〜2026年) 出典:じゅそうけん(X / 旧Twitter)
この順位は、一般入試のランキングとはまるで異なる顔ぶれだ。開成も筑駒も上位に現れない。なぜ渋渋がここまで推薦に強いのか。東大の推薦入試が重視するのは、高校での探究活動、課外活動(研究・国際活動・コンテストなど)、志望理由と将来ビジョン、そして面接・小論文だ。つまり「東大向けの受験対策力」よりも、独自性・主体性・具体的な実績が問われる入試である。
そう考えると、渋渋との親和性は偶然ではない。SOLAで900名規模のイベントを自主運営した経験、模擬国連での国際議論、英語ディベートでの全国実績、SSH指定校としての研究活動──これらはすべて、東大推薦が求める「高校時代の主体的な実績」そのものだ。「自調自考」という教育理念が、推薦入試という土俵で最も直接的に数字に現れているとも言える。一般入試では測りにくい「生徒の主体性と独自性を育てる力」。渋渋はその点で、全国のどの学校よりも結果を出している。この事実は、渋渋という学校の本質を理解する上で、PFPスコアや東大合格者数よりもむしろ雄弁に語っているかもしれない。
なぜ桜蔭合格者が渋渋を選ぶのか
渋渋の台頭を象徴するエピソードとして、「桜蔭にも合格したが渋渋を選んだ」という受験生の話が、ここ数年で珍しくなくなった。偏差値だけで見れば桜蔭のほうが高い。それでも渋渋を選ぶ理由は何か。校則のなさ、制服の自由度、表参道・渋谷という放課後の環境、そして「桜蔭で埋もれるより渋渋で伸びたい」という戦略的な判断──。こうした選択が積み重なることで、渋渋の入学者層は年々底上げされてきた。
「自由な校風と確かな進学実績」という両立は、かつては矛盾するものとして語られることが多かった。だが渋渋は、その矛盾を30年かけて解消してみせた。校則で縛らなくても生徒は伸びる。むしろ自己表現の自由と探究の習慣が、長期的な学力の底上げにつながる──渋渋という学校の存在そのものが、その証明になっている。
立地という教育資源──渋谷×原宿が与えるもの
渋渋の強みを語るとき、立地の話を外すことはできない。JR渋谷駅と原宿駅の中間という場所は、単に通学が便利というだけではない。表参道、代々木公園、美術館、ギャラリー、スタートアップが集まるオフィスビル──この一帯は、東京の中でも特に「多様な大人と文化が集積している」エリアだ。放課後に立ち寄れる場所の質が、生徒の視野や感性に影響を与えることは想像に難くない。
近隣の広尾学園も同様に都心立地を武器に急成長しており、「都心×共学」という組み合わせが進学校の新しいモデルとして定着しつつある。かつて進学校といえば郊外の静かな環境というイメージがあったが、渋渋と広尾の台頭は、都市の刺激そのものが教育資源になりうることを示している。
偏差値50から76へ──渋渋の30年が示すもの
1996年の変革から2025年まで、およそ30年。渋渋の軌跡は、一つの学校が「設計」によって根本から変わりうることを示している。偏差値は50から76へ。PFPランキングは全国12位。桜蔭を超える進学力。海外大への進学ルート。そのすべてが、創立時には存在しなかったものだ。
制服が可愛かっただけの学校が、なぜここまで変われたのか。答えはシンプルだ。「自調自考」という理念を本気で実装したからだ。生徒を信頼し、自由を与え、探究の習慣を育てる。その積み重ねが、30年後の数字に表れている。渋渋はもはや「新興進学校」ではない。確かな実績と独自の教育哲学を持つ、次世代型進学校のひとつの完成形として、東京の教育地図に確固たる位置を占めている。


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