巣鴨高等学校(東京) 進学校ファイル

進学校ファイル

かつての「池袋の雄」──巣鴨高校とはどんな学校だったか

池袋駅から徒歩圏内、東池袋に校舎を構える巣鴨中学校・高等学校。「質実剛健」を校訓に掲げ、厳しい規律と徹底した進学指導で知られるこの男子校は、1990年代から2000年代初頭にかけて、池袋エリアの進学校として豊島岡女子学園と並ぶ存在感を誇っていた。当時の駅周辺では、いかにも頭が切れそうな巣鴨生の姿をよく見かけたものだ。東大合格者数が2桁を安定して記録し、首都圏の男子進学校として確固たる地位を持っていた。

ところが2025年春、巣鴨の東大合格者数は1名(既卒)にとどまった。かつての姿を知る者にとって、この数字は衝撃以外の何物でもない。同じ池袋エリアでも、城北高校は東大合格者2桁を維持している。巣鴨に何が起きたのか。そして、この学校に復活の道はあるのか。

学校データ──質実剛健の男子進学校

巣鴨中学校・高等学校は、東京都豊島区上池袋に位置する私立の男子中高一貫校だ。最寄り駅はJR・東武東上線「池袋駅」から徒歩約15分、または都電荒川線「栄町駅」から徒歩数分という立地にある。1学年の生徒数は中学・高校ともに約200名規模。完全中高一貫制ではなく、高校からの外部募集も行っている。

建学の精神は「質実剛健」と「自主自律」。この精神を体現する行事として有名なのが寒稽古峠越えマラソンだ。真冬に薄着で行う寒稽古や、奥多摩の峠を越える長距離走は、体と精神を鍛える伝統行事として長年続いてきた。かつてはこの「厳しさ」こそが巣鴨の魅力であり、男子の「やる気」に火をつける装置として機能していた。しかし現代では、この種の荒行を「時代遅れ」「危険」と敬遠する受験生・保護者も少なくなく、志望者離れの一因になっているという声もある。

凋落の構造──何が重なったのか

巣鴨の東大合格者数が減少に転じた時期を振り返ると、複数の出来事が重なっていることに気づく。まず2007年の堀内政三校長の退任だ。元特攻隊員という異色の経歴を持ち、「男の中の男を育てる」という強烈な理念のもとで巣鴨の教育方針を確立した堀内氏は、生徒・保護者・OBから絶大な信頼を集めていた。彼の存在そのものが学校のブランドを支えており、その退任は単なる校長交代以上の意味を持っていた。

続いて2011年の鉄緑会指定校除外。鉄緑会の指定校制度は、入学時に無条件で入塾できる権利を意味する。この権利を失ったことで、鉄緑会への入塾を前提に中学受験校を選ぶ家庭の一部が巣鴨から離れた可能性がある。ただし鉄緑会は試験を受ければ指定校以外からも入塾できるため、これが決定打になったとは言い切れない。より本質的な問題は、学校としての「軸」が揺らいだことにある。

さらに、中学入試での算数選抜の導入も期待された成果を出していない。算数が得意な生徒を集める試みは一定の合理性があるように見えるが、算数に秀でた受験生は巣鴨以外にも多くの選択肢を持っており、学校としての総合的な魅力がなければ選ばれない。他校も類似の選抜を行う中で差別化が難しく、結果として東大合格実績の改善にはつながっていない。

東大合格者数の推移

年度 東大合格者数 備考
2000年代前半20〜30名前後池袋エリアの進学校として全盛期
2010年代10名前後に減少堀内校長退任・鉄緑除外後
2020年代一桁台に低迷が続く
2025年1名(既卒)過去最低水準

※過去の合格者数は概算。2025年の数値は公表データによる。

周辺校との比較──池袋エリアの現在地

かつて巣鴨と池袋の進学校ツートップを形成していた豊島岡女子学園は、現在も東大合格者数で安定した実績を維持し、全国トップクラスの女子進学校として評価が高い。同じ男子校で地理的に近い城北高校は東大合格者数2桁を確保し続けており、巣鴨との差は年々開いている。また偏差値で逆転されたとされる本郷高校も、かつての巣鴨の水準には届いていないながらも着実に実績を積んでいる。

池袋エリアという立地は、交通アクセスの面で他の進学校にも引けを取らない。問題は立地ではなく、「なぜ巣鴨を選ぶのか」という理由が薄れてしまったことだ。厳しさの中に魅力があった時代の巣鴨と、現代の巣鴨の間には、その「選ばれる理由」において大きな断絶がある。

復活への道──古豪には、まだ可能性がある

巣鴨の凋落を語ることは、この学校への批判ではない。むしろ、かつてこれだけの実績を持ち、強烈な個性を持つ学校が今この状態にあることへの、一種のもどかしさだ。

復活のためにはいくつかの方向性が考えられる。ひとつは入試設計の抜本的な見直しだ。算数選抜の枠を超えて、英語・数学の複合的な特待枠を設けたり、公立中学出身の優秀層を全国から呼び込む仕組みを構築したりすることで、入学者の質を底上げできる可能性がある。ラ・サールや北嶺のように寮を整備して地方からの優秀な生徒を受け入れる構想も、長期的には検討に値するかもしれない。

もうひとつは学校の「軸」の再構築だ。堀内校長時代の巣鴨が強かったのは、カリキュラムだけでなく「この学校でなければ得られないもの」という求心力があったからだ。質実剛健の精神を現代に通じる形に再解釈し、「厳しさ」を「自己鍛錬の文化」として魅力に変える努力が必要だろう。寒稽古や峠越えを単なる伝統行事として続けるのか、それとも現代の文脈に合わせて進化させるのか──その判断が問われている。

かつて「池袋の雄」と呼ばれた学校が、ここから先にどんな答えを出すのか。批判的な目で見ているわけではない。「よみがえれ、巣鴨」──その思いを込めて、今後の動向を注視したい。

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